(前回の続きから)

 

 しずかはのび太と同じ学区に住む同級生の女の子だ。本名は源静香。学校の成績は優秀で、のび太が深海の冒険にやって来れたのも彼女が付きっ切りでのび太の宿題の面倒を見てくれたことが大きい。宿題を監督したジャイアンと、甘言でやる気にさせたスネ夫とも仲が良く、のび太を含めた四人でよく一緒に遊んでいる。四人の両親たちも子供たちが仲良く遊ぶことを微笑ましく見守っており、親どうしも気兼ねなく交流をしている。……。のび太のママの玉子は、ちょっとばかし気兼ねしているかもしれない。ドラえもんは親たちからとても信頼されているが、玉子からはのび太の怠け癖を助長させているのではないかと見られており、居候の身も相まってすこし肩身が狭い。そんな中、しずかの評判は親たちからも良く、ドラえもんからもすこぶる高い。しずか本人の気性はともかく対人関係は礼儀正しくおしとやかなので、ほとんどの人から好感を持たれている。のび太の場合は好感というよりもデレデレしているという体なのだが、ジャイアンスネ夫からは(子供ながらに)大切な友人として思われている。すこし大げさに言えば一目を置かれている。しずかの目の前では悪さはしにくい、程度のことではあるが……。

 そのしずかの目の前で、ジャイアンスネ夫がバギーを滅多打ちにしていた。しずかの記憶の中で、ここまで一方的に暴力を振るう光景を見たことはない。ジャイアンのび太を殴る現場にはなんどか遭遇しているが、いま自分の前で起きていることはそんな子供のケンカの暴力とは意味合いが違っていた。バギーが人間なら死んでしまうのではないか、そんな悪夢を感じさせる暴力だ。

「中古のポンコツバギーが生意気なんだよ!!」

 その悪態をバギーが聞いた瞬間、バギーのボンネットからエンジン音が暴力的に唸り発生し、マフラーから知性の欠片も感じられないエキゾースト音が炸裂した。

《ブルルーッ イチバン気ニシテルコトイッタナ!!

 バギーはジャイアンスネ夫を轢き倒す勢いで突進した。あまりの爆音、剣幕に驚き二人は全力で逃げようとするが間に合わない。最悪の事態はドラえもんのび太がバギーを横から押し上げ、ひっくり返すことで回避された。タイヤが空転し動けなくなったバギーはロボットが変わったように叫んだ。

《ドーセボクハポンコツダヨ。サー、コワスナラコワセ!!

 ジャイアンスネ夫は放心しているが無事であった。

 バギーの持ち主であるドラえもんは、バギーAIの文字通りの暴走に困り果てた。

「前から少しおかしかったんだ。こんな危険な車は、壊した方がいいのかも……」

 死、壊、狂、暴。あんまりな現実にしずかは叫んだ。

「そんな!! 壊すなんて可哀そうよ!!」