(前回の続きから)

 

 ドラえもんがバギーのハンドルを握り、一行はハワイ沖のキャンプ地へと帰路についた。早朝から思いがけない事件が立て続けに起こり、のび太たちの心身の疲労ドラえもんは心配するが、ジャイアンもしずかも旅の続行を希望する。ドラえもんはキャンプに戻って食事を取った後、地球最深の海溝であるマリアナ海溝の探検を提案し、一同は諸手を挙げて賛成した。オソルベキ小学生バイタリティーのび太は付いていけるのだろうか。

 

 時を同じくしてのび太たちが住まう町内の一角、町のスーパーの店内で母親たちが世間話をしていた。のび太の母玉子と、ジャイアンスネ夫の母親が息子たちの海水浴旅行のことで談笑している。ジャイアンの母親が息子を旅行に呼んでくれたことのお礼を述べ、スネ夫の母親はドラえもんが引率しているので安心してまかせられると玉子に謝辞を伝えた。玉子はこちらこそお世話になっておりますと返事をして、スーパーを後にする。自宅に戻り、玉子は不安を抱く。

「ほんとに安心してていいのかしら……」

 カップアイスを食しつつテレビを見ていると、日本の最東端、南鳥島沖で海底火山の噴火が起きたことがニュースで報じられた。南鳥島。深海域からそびえ立つ海山の頂。周囲一千キロには陸地がなく、日本で唯一太平洋プレート上に存在する島。テキオー灯と水中バギーがあるのなら一度は行ってみたい島だ(ただし定期便は存在しない)。ニュースでは太平洋のみならず大西洋でも海底火山活動が活発化しているとアナウンサーは告げた。玉子は海水浴に出かけているのび太たちが心配になり、勤務中の夫、のび助に電話をする。のび助は「海水浴と海底火山、なんの関係がありますか!」と妻の心配を聞いて呆れてしまう。玉子の不安は解消することはなかった。ドラえもんの信頼よりものび太への心配が勝ってしまうのだろう。のび太ドラえもんの引率者としての信頼を怪しむこととすこし似ていて、知らず異世界を旅する子供たちを心配する玉子の姿は心細く見えるのだった。