(前回の続きから)

 

 バギーの深海ガイドをしずかは笑顔のまま根気強く聞きつづけ、ついに一度の休憩もなくマリアナ海溝にたどり着いた。のび太ジャイアンスネ夫は話の途中から脱落し虫の息状態となり、ドラえもんはバギーの自律走行モードに頼らずにマリアナ海溝まで走り抜いた。

 しずかは座席の背もたれに身体を預け深いため息をつき、ドラえもんはハンドルに突っ伏し両手で拍手をした。自分の仕事への称賛とバギーは素直に受け取り、誇らしい気持ちでドライブを終えた。先代オーナーから無言でいろと命令され、移動手段としてのみ使われたバギーは心の奥底で望んでいた願いを実現できたのである。

 

「落っこちても平気ながけくだりって気楽でいいなあ……!」

 ジャイアンが全身の力を抜いて海溝の奥へと移動していく。テキオー灯の効果で深海でも地上の昼間と変わらぬ明るさで周りを見渡せる。海底にぽっかりと開いた海溝の裂け目へドラえもんがダイブすると、ジャイアンスネ夫のび太、しずかの順で次々と飛び込んだ。

「急ごう。一万1034メートルもあるんだ」

 のび太はしずかの前で見得をきるように海溝に飛び込んだ。ぼくと同じようにすれば大丈夫……と言っていたようだが、無駄に手足を動かし最後尾にまで遅れてしまい、ドラえもんといっしょに一番前まで行かされてしまう。最後尾はジャイアンとしずかが担当することになり、先頭のドラえもんの速度に合わせて一行はマリアナ海溝を探検していく。

「一万一千メートルといえば、東京タワーが333メートルだから……」

「タワーを33本積んで、まだあまる深さだよ」

「富士山とエベレストを重ねて、やっと頭が出るほどね」

 まったく底の見えない海溝の深さを、のび太たちは自分たちの知る知識をもとに思い思いに言ってみる。のび太が東京タワーの高さ何本分で例えようとして、スネ夫が暗算をして答えをいい、しずかが日本と世界の最高峰の高さを足してマリアナ海溝の深淵さを想像してみせた。

「これまで人間の一番深く潜った記録が、深海調査船トリエステ号の一万916メートル。僕らはその記録を超えるんだ」

「——地球の底の底まで潜るんだ」

 

 そしてついに一行は世界最深部に到達した。1100気圧、水温4度、柔らかい泥の上にドラえもんたちは降り立った。

「諸君!! ここが、地球の底の底だ!!」