(前回の続きから)
先頭を行くドラえもんが静かにタケコプターを下降させる。両足で着地をすると、そのまま海底にひざを突いた。のび太としずかも同じように海底へ着地する。
「タイムリミット……!! すべてはおわった………」
うなだれたままドラえもんは呟いた。
22世紀の知能を持つロボットたちは自己の思考とはべつに様々なタスクを電子頭脳が自動管理している。市場に出荷されたロボットは初期設定の仕事を遂行するように作られているが、主人に付き従い学習を重ねることで、人間との共同生活を円滑にできるよう成長する。それはロボットにとって自信ともいえる感情の獲得を意味していた。ただし過信は思わぬミスを招く。本来であればあり得ないようなミスを……。
「ぼくの責任だァ!!」
ドラえもんが叫んだ。
「壊れてお詫びする!」
四次元ポケットから特大のハンマーを取り出すと、ドラえもんは自らの頭を破壊すべくハンマーを振り下ろそうとした。慌ててのび太がハンマーを取り上げ、しずかがドラえもんを諭す。緊張の糸が切れ、責任感から自暴自棄となったドラえもんだったがしずかの説得もあり落ち着きを取り戻した。電子頭脳へのアクセスが正常に戻り、あることに気が付く。
「ああ!!」
「『とりよせバッグ』で『どこでもドア』を取り寄せればよかったんだ!」
信じられないものを見たかのように、のび太としずかはドラえもんを見つめた。
のび太の緊張の糸が切れた。
手にしたハンマーを両手で持ち振りかぶると、そのままドラえもんに向き直った。即座に逃げ出すドラえもんと、ドラえもんを追うのび太を追いかけるしずか。感情が暴走してまともな思考ができないでいる三人。先ほどからなだめ役に徹しているしずかの心情はいかばかりか。
三人の追いかけっこはドラえもんが急に立ち止まり、のび太、しずかと多重衝突事故を起こして終了した。ドラえもんが海底の地平線(?)を見やり、自身の聴音機能を全開にする。のび太としずかもドラえもんの様子から遠方から地響きのような音がしていることに気が付いた。
「海底火山かしら」
「違うね……。大砲でも撃ってるみたいな音だ」
「ずうっと遠くらしい。水は空気より音をよく伝えるからね。方角はジャイアンたちのいるあたりだ」
ドラえもんは『とりよせバッグ』から『どこでもドア』を取り出した。
「とにかく行ってみよう」
数千キロメートルを一瞬で移動し、ジャイアンとスネ夫のいる場所へとやってきた。
周囲の海底に石塊が無数に転がっており、岩山には巨大な穴が穿かれて破壊の跡が認められた。
「なにかものすごいエネルギーがまわりの岩をくだいて、こんなことになったらしい…」
ドラえもんが慎重にあたりを警戒する。するとしずかが叫んだ。
「あそこにバギーが!!」
岩に埋もれて車体の腹を晒したバギーが見つかった。ドラえもんがバギーを起こして詰問した。
「ふたりはどうした!?」
プルル…と軽いアイドリング音を上げて返事をするバギー。ドラえもんがもう一度詰問しようとすると、のび太が叫んだ。
「おおい!この岩かげだ!!」
ドラえもんとしずかがのび太の元へと駆けつけると、岩に背を預けるようにしてジャイアンとスネ夫が腰をおろしていた。両目は閉じられ、一見すると静かに眠っているようにも見える。だがテキオー灯の効果が切れた今、そんなことはあり得ない。二人の遺体を前に、のび太たちは声をなくして立ち尽くした……。