(前回の続きから)

 

 人跡未踏の深海域に大西洋バーミューダ沖に沈没船として発見されたスペインのガレオン船が存在した。ジャイアンスネ夫時価二十兆円とも言われる財宝を目当てに、ドラえもんとしずかは目の前に現れた怪異としか言いようのない船に心を奪われ、船内の探索に向かう。のび太は一人、カキとフジツボに覆われた甲板上に残り、しずかの後を追わずにメインマストを登り見張り台から周辺を監視した。しずかの前では虚勢を張り無関心を装ったが、本心ではこの沈没船が不気味で恐ろしくて仕方がない。お宝も冒険もいいが幽霊やガイコツのお化けが出たらどうするのか。幽霊船が実在するなら幽霊やお化けが船の中に出てもおかしくない。もし薄暗く狭い船内でそんな怪物と出会うものなら悲鳴をあげてその場で気絶する自信がのび太にはあった。だから船の外で周りを警戒するのだ。みんなと一緒に行動できない引け目は感じるが、のび太なりに精一杯勇気をふり絞り行動していた。

 しずかが船倉に入ってから何分か過ぎただろうか。見張り台から船内にいるドラえもんたちへ大声で呼びかけても返事がなく、深海に自分の声が響いては消えていった。せっかくの深海旅行もみんなと思い出が共有できなければ楽しみが半減してしまう。完全に出遅れてしまったが今から船内に入ってみようかとのび太がそわそわし始めたとき、異変が起こった。

 のび太の耳に小さく周期的な機械音が聞こえてきた。音の聞こえる方向へ目を凝らすと黒い豆粒のようなものが見え、聞こえる音の高まりと共にその姿は大きさを増した。黒い豆粒は次第に黒い魚に姿を変え、沈没船へ向かって近づいてくる。もしのび太ではなく観察力に優れた人物、しずかやスネ夫がこの場にいれば、深海ツアー初日で見かけた深海魚と外見の特徴が似ていることに気がついただろう。もっとも特徴的な望遠鏡のような短い筒状の目玉は赤く不気味に発光し、沈没船へ目がけて餌を見つけた捕食者のように近づいてくる。のび太は魅入られたように怪魚を見つめてしまい、自分が何のために見張り台にいるのかを忘れてしまっていた。

 のび太が我に返り怪魚の目玉から目を離すと、すでに沈没船から数百メートルと離れていない距離にまで近づかれていた。怪魚の目玉がさらに赤く発光し猛烈な勢いでメインマストへと突撃してくる。ここに至り怪魚がただの魚などではなくのび太の通う小学校の体育館、いや後楽園球場に匹敵する巨体を持つ怪魚であるとのび太は感じた。あまりの恐怖から大声を張り上げ、メインマストから全力で逃げ出した。幽霊でもお化けでもない、人間を丸呑みしそうな巨大怪魚が襲って来た。

「わ~!! みんな来てくれぇ!!!」