(前回の続きから)

 

 ジャイアンスネ夫がバギーを無断拝借してバーミューダへ出発するよりも数時間前、のび太たちが就寝するテントアパート上空を一隻の不審船が通過していた。航行する動力音も発生せず、曳航する動力船もいない。ぐっすりと寝ているドラえもんがテント周辺に警戒用の探知機を用意していれば、その船を発見しあまりの非現実的な光景に対処できずに見送ったであろう。その船はのび太たちが海底冒険に出発する前に、二十兆円相当の財宝を積んだまま行方不明となった沈没船そのものであった……。

 

「うん? エル、いま通過した場所に人工物らしき反応を検知した。巡回マップにポイントしてくれ」

「了解。アトランチスの哨戒基地跡かもしれないな。至急本部に連絡を入れる。沈没船の曳航任務は他の隊に引き継いでもらって、僕たちでよく調査してみよう」

 二人組の兵士が海中の風景に溶け込んだ巡視艇のコックピット内で会話をしている。人間と同じ背格好で頭の上半分を覆うゴーグル付きのヘルメットを着用している。原理は不明だが彼らが操船する小型艇はスクリューの推進力を必要としない船のようだ。すぐ近くにいる沈没船も小型艇と同じ速度で追従している。明らかに20世紀の科学を超えたテクノロジーの産物だった。

(面白いね。ここ数千年でアトランチスの前線基地が太平洋上に見つかった記録はない。もしかすると私たち以外の海底人種……いや、地底人とのコンタクトの予感もするよ)

(任務中のおしゃべりは禁止だと言っているのに…。もし他種族とのファーストコンタクトなら対応しだいでは国家存亡レベルの事態に発展しかねない。興味本位だけでちょっかいを出す気ならヘルメットは返しますからね!)

(おー怖い。だけど現実的に考えてポセイドンシステムが世界を覆う今の世の中で、海底を自由に散策できて、かつアトランチスの末裔ではない種族がいるのなら鬼角弾の世界への攻撃は相当に現実味を帯びるだろう。ポセイドンが脅威を感じる文明レベルでないことを祈るよ)

 エルと相方から呼ばれた兵士は、言葉に出すことなく自分の脳内で会話をしていた。ヘルメットに内臓された無線機でこの場にいない人物と精神内で会話をしている。その様子から相方の兵士にもテレパシーのことは秘匿していると思われた。

「よし、本部と連絡がついた。予定ではウェーク島沖で待機している僚機と任務の引継ぎを行い、そのまま先刻のポイントへの調査任務に就く」

「了解。今日は残業だな。念のためにテキオー灯のエネルギー残量も見ておくか…って、ヤバ。使う機会がなかったからバッテリーが上がっているよ。充電、充電」

 それは何の奇跡か。兵士が手にした道具はドラえもんが使用するテキオー灯そのものだった。長らく使っていないという話から、兵士たちはテキオー灯の効果を得ないで海底で生存できる種族と分かる。のび太たちと見分けのつかない人型の生命体であり、深海で生存できる種族。彼らは海底人なのだ。