(前回の続きから)

 

 気安くロボットのことを聞いてくれるなあ、とドラえもんは思った。未来のことは軽々しく話せないんだと言えばよいのだが、スネ夫は必ず言うだろう。

「え、ドラえもんが言うの?」

――と。ロボットの行動理念は人を幸せにすることだが、人間が個人個人で幸せの定義は異なるように、ロボットにだって個人の都合というものがある。人間が他人の家庭のことを無遠慮に聞くのを躊躇うように、スネ夫にもロボットのプライバシーを尊重してほしいものだ。

「えー。おほん。僕にとっての道徳とはのび太を一人前に成長させることであり、ひいてはのび太の周りにいる人たちを大切にすることであります。スネ夫もその一人だよ。これでいいかい?」

「うわー。つまらない答え。じゃあ、バギーのことはどう考えているの?」

「バギーの所有者として、今回の件はスネ夫ジャイアンにすまないと思っているよ。今後は人命を最優先させる。スネ夫も僕に無断でバギーを乗り回した一件があるわけだし、バギーを罰したい気持ちを抑えてくれないかな」

「……いや、そこまでバギーに恨みがあるわけじゃないんだけど」

 スネ夫は他所を向いて答えた。

「あとでドラえもんの気が向いた時になんでもいいからお礼をしてくれるとか…。それで手を打つ……てのはどう?」

「うん、わかった。必ずスネ夫が喜んでくれる形でお礼……お礼?をするよ。よく考えておく」

 ドラえもんがそう言うと、横を向いたままのスネ夫の口角が少し上がった。

(……よっぽどタイミングと場とスネ夫の自尊心を読まないとマズそうだ。そんな機会があるのだろうか)

 未来視機能が備わっていないドラえもんには知る由もないが、その機会は、スネ夫のみならず、しずかやのび太たちの将来を左右するような意外な形で訪れることになる。