(前回の続きから)
ジャイアンとスネ夫が無事だったとはいえ、謎の破壊跡が見られる現場に長居は無用だった。ドラえもんがバギー本体への最低限のチェックを素早く済ませる。外観からタイヤ、エンジン、ミッション、足回り系統の確認。問題はなさそうだ。ドラえもんは運転席に乗り込み、バギーに話しかけた。
「人間のこと、石ころかなんかだと思っているのかい?」
《……言ッテルコトガ、リカイデキマセン》
「ジャイアンたちにバーミューダ諸島まで行ってくれと言われた時、どうして僕に相談しなかったの? 君ならテキオー灯の効果時間のことを考慮できたはずだ。僕は疑っている。ただ自由に走りたい、そのためだけにジャイアンとスネ夫を乗せて走り出したんじゃないかと」
《…………》
「メーカー準拠のAIテストも合格した優秀な君だ。どこまでが限界かいろいろと試そうとしたのかもしれない。自分の楽しみのためだけにね……」
ドラえもんがマニュアルミッションのギヤの入りを確認する。丈夫な車だ。少しもギヤの入りに違和感がない。
「かく言う僕も我儘なんだ。自分のストレス解消のために君を購入し、なんだかんだでのび太くんたちに夏の思い出を作ってもらおうと四苦八苦している。楽しいんだか苦しいんだか…」
アクセル、クラッチ、ブレーキ、ハンドル操作、ライトスイッチ、問題はないようだ。
「だから我儘同士、自分に嘘はつかないでほしい。死ぬ気だったかもしれないけど、拾った命の意味を考えてほしい。そして乗っている僕たちの命のことも考えてほしい。言いたいことはそれだけさ」
車両イニシャライズの自己診断も異常はなかった。いけそうだ。
「よーし! すぐに出発しよう。みんなバギーに乗って!」
ジャイアンが後部座席に飛び乗り、しずかは助手席に、のび太とスネ夫はジャイアンの両脇に乗り込んだ。何事もなくバギーは走り出す。