(前回の続きから)

 

 ドラえもんタケコプターを全開で飛ばしながら考える。のび太たちが夏のキャンプに行きたがり、海底キャンプの提案を理不尽に一蹴され、頭に来た状態でバギーを衝動買いしてしまったことを。海洋レジャーの担当ロボット店員は言っていた。

「こちらは中古の特価商品となっています。新車販売時の付属品はレス状態ですが、ロボットの方が使用する分にはまったく問題ありません」

 ドラえもんは店員に聞いた。

「人間が乗る場合になにか問題でも?」

「この車両のAIは前所有者との学習記憶が残ったままで、データ消去にはメーカー工場へ出さないといけないのですが、当店では諸事情でそのままでの販売をしています。バギーAIにはメーカー準拠のテストをして合格しているのですが……」

「じゃあ問題はないんじゃない?」

「はい。問題はありませんでした。ですが…まあ…売れ残っていまして、わたしが説明するよりも一度本人と話をしてみてください」

 ロボット店員が陳列ブースの足元からコンセントを取り出し、バギーへと接続する。ハンドル付近のスイッチを入れるとバギーが数センチ飛び上がって着地した。

《マタアタラシイゴ主人サマカ。コンドハナンノヨウダ

 ドラえもんは質問をした。

「こんにちは。ぼくドラえもんです。きみの名前はなんていうんだい」

 バギーは数秒の間を置いて、ドラえもんに応えた。

《バギーデス。ナマエハマダアリマセン

「……そうなんだ」

 ドラえもんは店員に向き直って言った。

「なにも問題なさそうだけど。いったいなにがいけないの?」

 店員もすこし意外そうな声色で返事をする。

「なにも問題なさそうですね。おかしいなあ。お客さんにこう言っちゃうとマズイのですが、かなり性格が悪いAIだと思っていたんですけど」

 かなりぶっちゃけた店員の説明にドラえもんは驚いた。でもそれほど嫌な気分にはならなかった。店員の言うことが事実なら、このバギーと自分とは相性がいいということになる。頭に来た感情を海底ドライブでスカッとぶっ飛ばすにはいい相棒ではないかと思った。

「よし。決めた。きみを購入するよ。すぐに太平洋をぶっ飛ばすつもりだからそのつもりでいてね」

《リョウカイシマシタ

「ところでここローンって利きます……?」

 

 相棒と呼ぶにはあまりに短すぎる間柄だったが、バギーは(やはり性格に難はあったようだが)決して問題のあるAIではないとドラえもんは信じる。ロボットにとってAIの根幹は人間にとっての神と同じくらい大切で意味不明なブラックボックスだが、人間を信じていればAIは決して間違いを犯さないはずだ。

(どうしてぼくに断りなく出発したんだ。おかしいだろ……)

 ドラえもんの心のなかに一抹の不安がよぎる。タケコプターの回転軸からはドラえもんが聞いたこともない悲鳴があがっていた。